ピロリ菌とは
ピロリ菌とは正式名称をヘリコバクター・ピロリといい、感染することで強い酸性状態にある胃に住み着きます。強酸の中でも死なずに生息できる理由として、ウレアーゼとよばれる酵素が酸を中和することができるためとされています。このウレアーゼはアンモニアを生成し、アンモニアによって胃粘膜が炎症を起こします。WHO(世界保健機関)は、ピロリ菌が慢性胃炎・胃潰瘍・胃がんに関連するとされていますので、ピロリ菌感染が疑われた場合には除菌治療を行うことを推奨します。
ピロリ菌感染について
ピロリ菌は、胃酸の弱い幼少期に口から胃に入って感染しますが、大人になってからの感染例はほとんどありません。明確な感染経路は判明していませんが、井戸水や赤ちゃんへの口移しなどが原因ではないかと考えられています。現代では、衛生環境が悪い地域に感染者が多いものの、先進国である日本も感染率が高くなっていることが現状です。年齢が高くなるにつれて感染率が上がり、70歳以上の方はおよそ7割の方が感染しているとされています。
ピロリ菌と病気の関係
ピロリ菌に感染することで、胃がんのみならず慢性胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍の発症に影響するとされています。さらに、胃MALTリンパ腫・ポリープ・突発性血小板減少性紫斑病などの疾患もピロリ菌に関係していることが判明しています。これらの疾患は、除菌治療が成功すれば再発を防ぐことができるとされています。
慢性胃炎
ピロリ菌は胃粘膜に住み着くため、ウレアーゼという酵素でアンモニアを生成し、胃粘膜を傷つけて炎症を起こしやすくします。炎症が繰り返し起こると胃の粘液の修復が追いつかなくなり、胃が萎縮して萎縮性胃炎を起こします。ピロリ菌による慢性胃炎は、胃痛・胃もたれ・吐き気・空腹時の胸やけ・食後のむかつきなどの症状が起こることなく進行することもあります。さらに、萎縮性胃炎は胃がんへ進行する可能性があるため、注意が必要です。
胃潰瘍、十二指腸潰瘍
胃酸や消化酵素は、非常に強力で食べ物を溶かし細菌を殺菌するほどです。通常の胃では粘液が胃粘膜を保護・修復しているので何も影響ありませんが、ピロリ菌に感染していると慢性的に炎症が起こり、修復力が低下し粘膜と下の筋層にまで強力な胃酸や消化酵素が浸透し、傷つくことで潰瘍ができます。症状が重篤化すると、胃壁に穿孔が起こります。ピロリ菌以外に潰瘍ができる原因に解熱鎮痛薬の服用があります。胃潰瘍・十二指腸潰瘍の症状としては、みぞおちの痛み・吐血・黒色便が出ることがあります。症状が現れた場合、お早めにご相談ください。
胃がん
胃がんを発症する主な原因に、喫煙・塩分摂取量があります。しかし、WHO(世界保健機関)によると、胃がん患者のおよそ8割がピロリ菌に感染しているとされています。ピロリ菌が原因で慢性的な炎症が起きると、胃粘膜が痩せて萎縮します。これにより萎縮性胃炎を発症し、胃がんの危険性が高くなります。昨今の市販薬には、胃粘膜の炎症・潰瘍の症状を緩和させる作用のある薬が多くありますが、市販薬を常用することで症状に気づかず、受診が遅れ、症状が進行してしまうこともあります。市販薬を中止すると症状が何度も繰り返される場合は、なるべく早めにご相談ください。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌を検査する方法として、胃カメラ検査・血液検査・便検査・呼気検査があります。ただし、保険診療で検査できるものは胃カメラ検査で慢性胃炎と診断されたときのみになります。除菌治療後の判定では、呼気検査も保険診療になります。
内視鏡による検査
胃カメラ検査中に、組織採取をして病理検査を行います。
病理検査(組織鏡検法)
ピロリ菌の量が少なく判定不可能になることもありますが、採取した組織を顕微鏡で観察して検査する方法です。
迅速ウレアーゼ法
ピロリ菌から出るウレアーゼという酵素は、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。短時間で結果が出るような検査であり、採取した組織を専用の試薬につけて判定します。しかし、感染しているにもかかわらず結果が陰性と出ることがあり、薬を服用している場合は正確な診断が出ないこともあります。
培養法
採取した胃粘膜の組織を、ピロリ菌の発育しやすい環境下で培養を行い、ピロリ菌があるか調べる検査方法です。
内視鏡を用いない検査
血清抗体検査・尿中抗体検査
ピロリ菌が血液・尿内に抗体が含まれていないか確認しますが、除菌治療ができても数年間は陽性反応が出ます。そのため、除菌判定を行う際は、この検査方法は使用しません。
便中抗原測定
便中に含まれるピロリ菌の抗原の有無を調べる検査方法です。
尿素呼気試験
ピロリ菌が出すウレアーゼは、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。この尿素を利用して試験薬を服用する前後の呼気を採取してピロリ菌に感染しているか検査することができます。なお、検査当日は、食事を召し上がらずにご来院ください。ピロリ菌の除菌治療の除菌判定にこの試験を行う場合は、保険適用となります。
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌を薬物療法で除菌する際、2種類の抗菌薬と胃酸の分泌を抑制する制酸剤を1週間朝晩と服用して除菌治療を行います。成功率はおよそ80~90%のため、除菌治療が必ずしも成功するとは限りません。薬の服用が終わって、4週間後以降に判定検査を行います。1次治療で除菌治療が成功しなかった場合、2次除菌治療に移ります。1次治療の時と抗菌薬を変更して治療を行います。服用方法・判定検査は1次除菌治療と同じ内容で行います。1次除菌と2次除菌を行うと、除菌成功率はおよそ90~95%まで上がります。3次除菌もできますが、保険適用外となります。除菌治療を行う際、抗菌薬を服用する影響で味覚異常・軟便・下痢が起こる可能性がありますが、ほとんどは薬の服用が終了すれば改善します。服用後も症状が改善しない場合はご相談ください。なお、抗菌薬でアレルギー反応が出ることや蕁麻疹・湿疹・発熱などの症状が出た場合には服用を中止し、当院までご連絡ください。